第82章 三点式

灰原仁司は何も言わず、顔を背けると、そのまま現場の指揮に戻った。

杉浦杏奈が飛行機を降り、撮影が始まってからも、灰原仁司は一度もこちらへ来ない。

杏奈は何度か周囲を見回したが、彼の姿はどこにもなく、胸の奥が妙にざわついた。理由の分からない不快感が、じわじわと膨らんでいく。

指の傷痕をつい掻きたくなる。だが、今触れば撮影に響く。控室でコンシーラーを丁寧に塗って隠したばかりだ。

そのとき、スタッフの一人が慌ただしく永井明のもとへ駆け寄り、耳元で囁いた。

「杉浦家の連中が無人島の近くにいます。ヘリがゆっくり接近中です。警告しますか」

「いい。こっちは通常どおり撮る。見られて困るものでも...

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